物質が存在するというのは実はある意味異常なことなのだ。
え、何を言っているのかといわれるかもしれないが…
以前、反物質について触れたことがある。
ガンマ線を真空に照射したら電子と陽電子が出現すると。
で、そいつらは対消滅してエネルギーを発生し消えてなくなる。
だがちょっと待って欲しい。
反物質と物質は対になっていたと考えられるわけで、とするとだ、
我々を構成する物質の対となる反物質はどこへ行った?
おかしくはないだろうか?
反物質はどこへ消えた?
粒子と反粒子を支配する法則は、実のところ「だいたい」一緒だ。
この「だいたい」ってところがかなり重要だといっていいだろう。
つまりあれだ。「厳密に言うと違う」
細かいこというなよといわれそうだけど、細かいんだからしょうがない。
もし完全に一緒のルールだったとしたら、我々はおろか宇宙も存在し得ない。
びみょーな違いのおかげで、我々はこうして存在できているわけで。
1967年にソ連の科学者であったサハロフは、宇宙はもともと対称な状態で
発生し、反粒子と粒子が発生しては消滅していたが、徐々にでっかい
粒子(ハドロン)が出現すると非対称な状態になっていたと考えた。
この考えの素地にはCP対称性の破れが実験的に確認されていたという
事情がある。弱い相互作用におけるパリティ対称性の破れを楊振寧と
李政道らが考案し、呉健雄により確認されたのである。
3つのクォークからなるバリオン(陽子や中性子)や、メソン(中間子)など
が生成されていくにつれ、その性質の差があきらかとなっていく。
…宇宙生成からここまでわずか1秒に満たないお話である。
宇宙刑事もびっくりの早さではなかろうか。
何もないところから素粒子が出現するまで1秒って…
さておき最終的にスタンフォード大学の線形加速器センター(SLAC)や
KEKで各種の実験結果によって、CP対称性の破れが確実に存在することが
明らかなものとなった。
KEKの実験結果ではB中間子よりも反B中間子の方が約4:3の割合で壊れやすい
ということである。でもそれくらいの数字だとでかいな。
こうして物理学的な謎、われわれがどうして存在できたのかについての
理解はちこっとだけ深まったが、そもそも真空から粒子が発生するメカニズム
とかについてはまたの機会に。
反物質もこわれやすいだけでなく、事象の地平面の彼方にとびさるせいで
なくなってしまうとも考えられなくもない…ブラックホール内部ではそのような
ことがおこっているもようではあるが。
それにしても、われわれがいずこより生まれいでたのかを知りたいというのは
人間の本能なのかもしれないな。
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